新海誠監督みずから執筆した原作小説
「君の名は。」は2016年の夏に公開された映画ですが、それと同時に原作小説も登場していました。新海監督が自ら執筆した小説です。
監督は、当初は小説を出す予定はなかったと語っており、その理由は「君の名は。」はアニメーション映画としての形が一番だと考えていたからだそうです。
それでも、小説も「君の名は。」の世界観が感じられる作品でした。
映画とは異なる、二人からだけの視点
特に面白いと思ったのは、作者のあとがきで、小説と映画で語り口が異なる。という話です。
小説と映画で物語上の大きな違いはないけれど、語り口には少し差がある。小説版は瀧と三葉の一人称、つまり二人の視点のみで描かれている。彼らが知らないことは語られないのだ。一方、映画はそもそもが三人称
ーつまりカメラが映し出す世界である。だから、瀧と三葉以外の人々も含めて文字通り俯瞰で語られるシーンも多くある。どちらも単体で十分に楽しんでいただけると思うのだけれど、このようにメディアの特性として必然的に相互補完的になっている
そうなのです。実は映画ではそこまで語れなかった部分が小説では丁寧に説明されていたり、映画ではビジュアルとしてわかりやすかった視点が、小説では知り得ないものとなるなど、メディアの性質の違いが、まるで目が2つあることで対象の距離感を掴むようにこの物語をさらに鮮明にさせてくれるのです。
映画でも印象的な、瀧が三葉に入れ替わった時におっぱいをもむシーンなどは、瀧がこんなこと思って揉んでたのかと面白かったです。結構無邪気なんだな、とか。
ラストに向かって高揚する感情はそのままに
映画では、新海監督の得意稀なる映像美によって、終盤に向かいどんどん感情が高揚し、美しい描写が故に訪れる惨事が浮き彫りになります。私は、小説でどうやってあの怖いくらいの美しさを表現するのだろうか?と若干疑いながら読んでいました。
しかし、前述のように、この小説は映画と相互補完的になっているため、小説を読むと映画のシーンがありありと思い出され、それでいて映画とは若干異なる語り口で物語を追えるので、映画以上に彼ら二人の感情に近い場所にいるように感じました。
その意味でも、小説はぜひ映画を観た後に読んでほしいなと思いました。
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